クルド難民デニスさんとあゆむ会 Walk with Kurdish Refugee Deniz

私たちは、入管施設に長期収容されたうえに入管職員の暴行を受け、自殺未遂を繰り返すようになったトルコ出身のクルド難民、デニスさんが安心して日本で暮らせるよう手助けしたい、と集まった友人、知人の市民グループです。

クルド難民デニズさんとあゆむ会 ニュースレター No.1 2022 年 5 月 13 日発行

クルド難民デニズさん支援情報

ニュースレターのPDF版はこちらのリンクからダウンロードできます→PDFリンク

デニズさん

【特集 1 入管収容自由権規約違反訴訟】

「入管収容は国際法違反」

クルド難民デニズさんとイラン難民サファリさんが裁判を始めました!

第一回口頭弁論 5 31 日(火)15 時から 東京地裁103 法廷

大きな法廷です。ぜひ傍聴にお越しください!第1回口頭弁論期日では、デニズさん、サファリさん、弁護士チームがそれぞれ意見を述べ、この裁判にかける思いを伝えます。傍聴席の数は約60人分です。当日は、裁判開始の30分ほど前に傍聴券の配布/抽選がある予定です。大きな注目が集まっています。東京地裁の入り口に傍聴券の配布場所が設けられると思いますので、配布時間に間に合うようお越しください。(→詳しくは p.3 にて)

■裁判報告会 同日 16 時頃~ 日比谷図書文化館 4 階スタジオプラス(地裁から徒歩 5 分、日比谷公園内)

 

デニズさんに対する入管職員による暴行

【特集 2 クルド難民収容者暴行事件国賠訴訟】いよいよ大詰め!

デニズさん暴行事件 国賠訴訟

5 13 日(金) 11 30 分から

東京地裁415 号法廷

 

関心のある方、支援をしたい方など、奮ってご参加下さい。

毎回、学生さんなど新しい支援の仲間が駆けつけてくれています。

傍聴整理券の配布はありません。直接、4 階の法廷に入れます。(詳しくは p.4 にて)

 

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デニズさんはどんな人?

クルド難民デニズさんとあゆむ会」について

本会共同代表 福島尚文

 私たちは、入管施設に長期収容されたうえに入管職員の暴行を受け、現在は仮放免中のトルコ国籍のクルド難民男性、デニズさん(43)が安心して日本で暮らせるよう手助けしたいと集まった友人、知人の市民グループです。難民申請者であるデニズさんへの在留特別許可と就労許可を求める署名運動を続けています。

 デニズさんは、母国トルコでクルド民族の出自であることを理由に不当な迫害を受けたため、2007年に来日、難民申請し、11年には日本人女性と結婚しました。しかし難民認定は現在まで拒否され続け、国外退去・強制送還対象者にされています。

 入管に拘束され約5年間収容されるなか、入管職員や医師らの非人道的な対応などから、不眠や頭痛などを訴え抑うつPTSDなどさまざまな病名と診断され、自殺未遂を繰り返すようになり、今も通院治療を続けています。仮放免中で健康保険がないため、医療費の本人負担が10割以上かかることもありますが、医療費を得るために働くことすら許されていないので、生活・医療は日本人の妻の収入に全面的に頼らざるを得ず、常に困窮している状態です。

 そのような日々の生活で健康状態も決して全面回復に至っていないデニズさんに必要とされる緊急的な医療の費用や可能なら生活費のごく一部だけでも手助けしたい、との思いがあります。昨年3月に私たちが「あゆむ会」を立ち上げたのは、仮放免後に多量の薬を飲んで再び自殺を図った後で、「(精神科の)専門病院で入院治療をしなければ、また必ず自殺未遂をする」とのデニズさんの悲痛な訴えを聞き、入院治療費が1日3万円ほどかかることが分かったため、緊急な支援カンパ金集めをする必要性に迫られたためでした。

 デニズさんの近況などは、このニュースレターで逐次お伝えしますが、入管職員らによる暴行事件の後、国家賠償訴訟を起こし、今年1月もイラン人男性と共同原告として国賠訴訟を提起しています。

 私たち「あゆむ会」の当面の任務は署名とカンパ金集め、裁判支援、いつも通院している場所でない病院への同行など、日常生活上の支援です。居住地から県境を越えて人に会ったり、買い物したりなどするためには、いちいち入管で許可を得なければならないなど、様々な不自由が課せられており、身近に友人を持つことも重要なテーマです。

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〈豆知識〉クルド人とは?

 クルド人とは、現在のトルコ南東部からイラク北部、シリア北東部、イラン北西部にまたがる「クルディスタン」と呼ばれる一帯を主な居住地とし、固有の風習や文化と歴史を持ち、クルド語を話す人々です。人口は3000万~4000万とされますが単一国家を形成したことがなく、「国家を持たない最大の民族」とも呼ばれます。4カ国の中でも、デニズさんの出身国、トルコにはクルド人が約1500万人も居住していますが「少数民族」です。山岳によって居住地が分かれているため、それぞれの地域に独自の宗教や文化があり、イスラム教やキリスト教の流れを汲む宗派や教団などがあります。クルド語もそれぞれ異なっているそうです。1991年の湾岸戦争後、イラククルド人たちが各地で蜂起した後、政府軍に相次ぎ鎮圧され、海外に100万人以上が難民として流出したことから、世界に「クルド問題」が知られるようになったと言われます。

トルコにおけるクルド人迫害

 13世紀から20世紀初めまで続いたオスマン・トルコ帝国では、クルド系領主が県知事に任命されるなど比較的良好な関係にありましたが、1923年に建国されたトルコ共和国では同化政策を含む急速な近代化に反対したクルド人の強い反発を招き、大規模反乱「シャイフ・サイードの反乱」など、トルコ人クルド人の民族的対立が進んだとされます。武装組織、クルド労働者党(PKK)は1984年から反政府武装闘争を開始。トルコ政府はクルド居住地での軍事掃討作戦を進め、クルド住民の家を軍の治安部隊や警察が相次いで襲い、住民らに暴行、拷問を加える事例が繰り返されたそうです。2014年からのエルドアン現政権でもクルド人に対する迫害が続いています。

 「日本から強制送還されたら生きていけない」と訴え、2004年には保護を求めて東京の国連大学前で72日間座り込みを行ったクルド人家族もいたほどです。

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【特集1 入管収容自由権規約違反訴訟】

「入管収容は国際法違反」日本の裁判所はどう応えるか

デニズさんの新しい裁判

入管収容自由権規約違反訴訟 原告代理人弁護士 髙田俊亮 

 デニズさんは、過去に経験した入管収容が国際的なルールに違反すると主張する新しい裁判を始めました。

 デニズさんは、これまで3年以上継続して収容された上、2019年には2週間だけ外に出た後にまた収容される経験をし、体も心もボロボロになりました。しかし、日本の裁判所や入管に訴えても、事態が解決する見込みはありませんでした。そこで、デニズさんは、イラン出身の難民認定申請者で、同じく収容でボロボロになったサファリさんとともに、2019年秋、弁護士を通じて、「恣意的拘禁作業部会」に対して通報を行いました。恣意的拘禁作業部会とは、国連人権理事会内の組織であり、刑務所や入管施設での収容といった人の自由を奪うことが国際的なルールに違反するか否かを審査できる機関です。恣意的拘禁作業部会は、日本政府の反論も踏まえた上で、2020年秋、二人に対する収容が国際的なルールに違反すること、日本政府が二人に対する賠償を行うべきこと、二人に対する収容の前提である入管法を見直すべきこと等を内容とする意見を公表しました。

 しかし、日本政府は二人に対する賠償を行わず、それどころか、恣意的拘禁作業部会の意見に真っ向から反対する見解を表明しました。そこで、二人は、今度は、日本の裁判所で、日本政府を相手に戦うことを決めました。二人は、この裁判で、恣意的拘禁作業部会の意見を踏まえ、自分達に対する収容が国際的なルールに違反すると主張しています。この裁判の大きなポイントは、日本の裁判所が恣意的拘禁作業部会と同じように、国際的なルール違反を認めるか否かです。裁

判所が二人の主張を認め、収容が国際的なルールに違反すると判断した場合、ほかの外国人に対する収容も同じく国際的なルールに違反するといえる可能性があります。また、国際的なルール違反の収容を生み続ける現在の制度自体の問題点を明らかにできる可能性もあります。

 第1回口頭弁論期日では、デニズさん、サファリさん、弁護士チームがそれぞれ意見を述べ、この裁判にかける思いを伝えます。期日と報告会の情報は、以下のとおりです。どなたでも傍聴・参加いただけますので、ぜひお越しください。

 

第1回口頭弁論期日  日時 5 月31 日(火)15 時 場所 東京地方裁判所103 号法廷

  ※30 分ほど前に傍聴券の配布/抽選がある予定です。

   詳細は、「東京地裁 傍聴券」と検索し、ご確認をお願いいたします。

報告会 日時 5 月31 日(火)16 時 頃〜

場所 日比谷図書文化館4階スタジオプラス(東京地方裁判所から徒歩5分)

 

クラウドファンディングのお願い

「Call4」でのクラウドファンディングが始まりました!
「日本の入管収容は国際人権法違反」訴訟

目標金額 1,000,000 円(現在の総額 145,000 円、サポーター 26 人)

Call4 は「社会課題の解決を目指す訴訟(公共訴訟)」の支援に特化したウェブプラットフォームです。

裁判支援のために、ぜひご協力をお願いいたします。

www.call4.jp

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 【特集2 クルド難民収容者暴行事件国賠訴訟

初めて公開された入管収容所内での過酷な暴行映像-「制圧行為」の違法性を問う―

クルド難民収容者暴行事件国賠訴訟 原告代理人弁護士 大橋毅

 デニズ氏は、東日本入国管理センター(通称:牛久入管)に収容されていた2019年1月18日夜、常備薬とされている向精神を希望したところ断られ、大声で抗議をしたところ、多数の警備官に持ち上げられて居室から「処遇室」と呼ばれる部屋に運ばれました。そして、後ろ手の手錠をされ、両手足と頭を押さえられて制圧されました。当時の入管の記録上、デニズ氏は処遇室で「四肢に力を入れるなどして激しく抵抗した」ため手錠をし、制圧したと記載されていますが、デニズ氏は、四肢に力を入れたとしても動かなかっただけで、激しい抵抗はしていません。

東日本入国管理センター(牛久入管)職員による、デニズさんへの集団暴行の様子。2019 年 1 月 19 日 代理人弁護士提供

 警備官らは、デニズ氏の抗議を止めさせるため、口を塞いだり、顎の付け根の痛点を親指で押して苦痛を与えたり、手錠をした両腕を締め上げて痛めつけたりしました。

 その上で、デニズ氏が暴力を振るったという理由で5日間の隔離処分が言い渡されました。デニズ氏は暴力を振るっていませんが、警備官のひとりが、居室内でデニズ氏から腹を蹴られたと言い出したのです。 デニズ氏は、所長に宛てて、不当な処遇を受けたことの申立をしました。

 この申立制度は、一般にはほとんど機能していなかったのですが、ビデオに残った動画内容で否定できないと思われたのか、所長は、顎下の痛点を押したこと、後ろ手錠をした腕を締め上げたことが不当だったと認め、総務課職員がデニズ氏に謝罪しました。

デニズさんは牛久入管職員から集団で暴行を受けた後、「保護室」に入れられ 5 日間の隔離処分を受けた。ここには排泄用の穴しかなく、寝る時も床に直に寝るしかない。2019 年 1 月 19 日代理人弁護士提供

 ところが、暴行をした警備官らは、配置転換もなくそのままデニズ氏の警備を続け、謝罪どころか、デニズ氏に対する挑発や、制圧まで行いました。

 以後、デニズ氏は頻繁に自殺未遂を繰り返すようになります。

 デニズ氏は2019年8月に、慰謝料請求の裁判を開始しました。裁判では、3つの不法行為を理由にしています。第一に、根拠なく、隔離処分を受けたことです。

 第二に、警備官らによる暴力です。入管庁は、不当と認めたはずの暴行について、必要であり、合理的な範囲だったから不当であっても違法でないと主張して争っています。

 第三に、不服申立てが認められたのだから、警備官の配置転換などの再発防止措置や、リハビリテーションなどの救済措置を執る義務が所長にあったのに、ほとんど何もしなかったことです。

 訴訟で、当時の状況を入管が撮影したビデオ動画の提出を求めたところ、裁判官からも要請して頂いて、動画が提出されました。入管収容所内の実情を広く知って欲しいという本人の意思によって、ご存じのとおり広く公開しています。

 本件訴訟は、公共訴訟を支援する団体「CALL4」によるクラウドファンディングを受けており、同団体のウェブサイトに、原告被告の主張などが公開されています。

www.call4.jp

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「あゆむ会」に参加する学生の思い(1) 上智大学4年生

 入管問題について初めて知ったのは大学1年の時だった。デニズさんだけでなく、さまざまな理由で在留資格のない人々が、それを理由に基本的人権でさえも保障されず、さらには入管内で非人道的な扱いを受けている現状に対し、何か行動を起こさなくてはいけないと思った。入管問題に学生として取り組むのは、在留資格がないだけで人間として生きる権利を奪われている現状がおかしいと感じるからである。この現状を変えるためにも、一市民として当事者と一緒に声を上げていくことは重要だと感じ、その一環としてデニズさんの暴行裁判を含む裁判傍聴や、所属する学生団体でも問題に取り組んでいる。

「あゆむ会」に参加する学生の思い(2) 中央大学 5 年生 井戸貴絢

 自分と同じ、日本で幸せな生活を送りたいと願う人が置かれる過酷な状況。その現状を知り、目を背けることができなくなった。2 年前まで、外国人問題は遠い出来事だった。しかし、あるきっかけで NPO 法人に保護されている外国人技能実習生の笑顔やおもてなしに触れ、自分と変わらない人間だという当然のことを肌で感じた。その後「日本における外国人」を調べ、入管施設の現状や仮放免を知った。「どうやって生活するのだろう?」素朴な疑問。自分にできるのはまず知ること。そう思って訪れた裁判所でデニズさんと出会った。デニズさんの優しさ・写真を撮るときの笑顔はとても素敵だ。「できること」というとおこがましいが、これからもおかしいことへの問題提起や当事者と共に歩む足は動かし続けていきたい。

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被仮放免者と医療(デニズさんの場合)

本会共同代表 原文次郎

 在留資格を持たず仮放免中の外国人に対して、入管は日本に正式に滞在している訳では無いので、在留外国人であれば受けられる公的な支援も受ける資格が無いと言います。しかし、就労も許可されず、移動の際にも許可を必要とされる状態で、公的支援を受けることもできず、どうやって自分で生きて行けと言うのでしょうか。

 医療サービスに関しても同様のことが言えます。6 カ月以上の在留資格を持つ外国人であれば居住する自治体に住民登録をした上で国民健康保険に加入することができます。

 ところが仮放免中の外国人の場合は受けることができる医療サービスに制限があります。デニズさんの場合は入管収容中に暴行を受け、収容が長期化した結果として心を病み、仮放免後も心の病の治療を必要としています。この治療費については被仮放免者も受けることのできる、数少ない公的支援を受けることで経済的負担が軽減された状態で治療を継続しています。

 ある日、デニズさんは目が腫れたとして助けを求める電話をして来ました。日本人や外国人でも在留資格を持ち健康保険に加入していれば、どこでも近くの医療機関で治療を受けて、保険適用で 3 割負担で済みます。しかし、デニズさんの場合は保険に入ることができていませんから、自己負担で10割の治療費を払う必要があります。無料低額診療制度と言って、このような外国人や日本人でも生活困窮により保険料が支払えない場合の無保険者を対象とした支援制度はあるのですが、この制度が使える医療機関は数が少なく限られています。

 デニズさんの場合は目の腫れをすぐ手当てする必要があったので、医療機関を選んでいる余裕が無く、ご自宅の近くの眼科医のクリニックにご案内しました。幸いにも良心的な医院で適切な対応を頂き、治療費も自己負担100%になりましたが、支援者の皆さんから頂いた寄付金から賄うことができました。

 別の日には歯が痛いとの訴えがあり、病院を探しましたが、歯科医は保険適用でも高額になる恐れがあります。幸いにも無料低額診療制度が適用できる病院を見つけることができたので、制度を使って保険の範囲と同等の治療を治療費が掛からない状態で受けることができています。しかし、往復の交通費などは負担になるので引き続き支援が必要です。

 

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【速報】デニズさんの腰痛が悪化しました 

本会共同代表 福島尚文

 5月7日、デニズさんは腰痛が悪化。昼ごろから急に激痛が繰り返し、動けない症状が続いたため、デニズさんの妻が勤務から帰宅するのを待って2人でタクシーに乗り、自宅近くの病院で夜間診療を受けました。点滴など痛み止めの処置とCT検査を受けた結果、ぎっくり腰の可能性があると、週明けに整形外科の専門医に行くよう勧められました。数日分の痛み止め、湿布薬、検査データなどを受け取り帰宅しました。重大な体調悪化にはならないようなので、ひと

安心しました。[今後の治療経過・報告はホームページに掲載する予定です]

 腰痛の原因はまだ不明ですが、デニズさんは以前から腰を痛めており、入管施設に長期収容された他の人たちの中にも、ぎっくり腰などの腰痛になった人がいるとのことです。

ひとつだけ指摘しておかなければならないのは、デニズさんが日本人の妻がいるのに在留資格がもらえず、今回のような医療を受けた場合、健康保険もないため医療費は10割、あるいはそれ以上の負担が強いられる、ということです。無料低額診療制度などの医療費の自己負担を低減する制度はありますが、今回の様に急な場合にはその様な医療機関を選んでいる余裕がないのが現状です。可能な方は医療費のカンパをお願いできれば、ありがたいです。

寄付のお願い

デニズさんの入院費や生きるために必要な生活費などのカンパを募っております。

【カンパ振込先】ゆうちょ銀行 店名 〇一八(ゼロイチハチ)

口座番号 0049017 口座名 フクシマ ナオフミ

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日本に今求められているのは幅広い「難民」の受け入れだ!

本会共同代表 マキンタヤ・スティーブン

 

 日本に滞在するクルド難民の一人であるデニズさんを支援するものとして、在日クルド人を含む難民申請者が日本政府による対応によっておかれた状況について考察したい。

 日本は1981年から国連の難民条約に加入した。しかし、それ以降、日本に逃れて難民申請する人が「条約難民」として認定される人数は非常に少なく、1990年代には認定者が一桁にとどまる年もあった。難民条約に加入しているにもかかわらず難民を受け入れない日本の政策は、「難民鎖国」と揶揄されている。

 2020年の難民申請の一次審査の結果が出ている。数字を見ると、「処理数」が5,439人で、「難民認定数」が46人、また、不認定の結果に対し異議を申し立てる「審査請求」の「処理数」は6,475人であり、難民認定数はたった1人だった。そのほかに、「難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由」に在留特別許可が与えられた外国人は44人いたが、合わせて11,914人中、91人の人だけが庇護されるという絶望的な状況である。(*1)

 1990年代初頭から、トルコ政府からの差別や迫害を逃れるクルド系の人々が来日する。しかし、トルコ出身の難民申請者が難民として認められることは、日本ではこれまで一人もなかった。同時に、トルコ国内の状況はクルド人にとって、2000年代に入って多少は改善されたと言われるものの、根本的な解決が無いまま、クルド人の集住地域での虐殺事件が近年まで定期的に起きている。そのため、在日クルド人の数は増え続け、現在では日本で暮らすトルコ国籍のクルド人は2000人から3000人程度いると言われている。

 トルコ国内でクルド人に対する差別、迫害、不当な逮捕と拘留、拷問、殺害が繰り返されてきたことは様々な政府機関、人権団体の報告やジャーナリストによるルポルタージュで取り上げられてきた。西欧諸国においてはトルコ政府によるクルド人の迫害は周知の事実である。しかし、日本政府の対応は極めて冷たく、そのような状況から逃れてきたクルド人でも「条約難民」として一人も認めてこなかった。また、「条約難民」として認めなくても、広い意味での「難民」として在留特別許可によって在留資格を与えることもできるが、在日クルド人に対しては、日本人と結婚して「配偶者」の在留資格が与えられた人以外にはほとんどそのような人道的な配慮がされてこなかったのが現状である。

 言葉の定義において「難民」とは、一般には戦争や災害から逃れる人という広い意味を持つ。人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由のため母国で迫害を受けるおそれがある人を保護するという難民条約に基づいて認められる「条約難民」にのみあてはめられる言葉ではない。それを踏まえて、ウクライナからの「避難民」について考えたい。

 今年の2月24日、ロシアによるウクライナに対する国際法に反する侵略により600万人以上のウクライナ人が国外へ難民として逃れた。それに対し、日本政府は、現在日本に滞在するウクライナ国民について、「在留許可の判断を適切に行って」いくとし、在留資格がなくても強制送還しないこととした。(*2)さらに、ウクライナから日本に逃れることを希望するウクライナ人においては「避難民」として受け入れることが日本の国会で決定され、数百人のウクライナ人の受け入れにおいて政府、企業、自治体、個人からの支援の申し出など、日本社会からの「積極的」な姿勢がみられる。

 ウクライナ避難民は条約難民ではない形で受け入れられている。我々はこれに対して、制定当初から難民の定義が狭いと言われてきた難民条約をさらに厳しく解釈してきた日本政府が、難民条約の定義に当てはまらない人でも受け入れる姿勢を示したことを、大いに歓迎する。「避難民」には1年間の在留資格を与えており、更新も可能で仕事もできる。しかし、日本で継続しての滞在を希望した場合はより安定した在留資格に変更できるのか、定住を日本政府はしっかりと支援するのか非常に疑問を持っている。 

 難民条約に批准する前に、日本政府はインドシナ難民の受け入れと定住政策を実行した。その結果1万人程度のインドシナ難民が受け入れられた。当時の先進諸国と比較すると少ないが同時に日本としては重要な前例となった。また、条約難民においても、例えば、他の国からの申請者に比べると、多くのビルマミャンマー)難民申請者が認定され受け入れられてきたが、それ以上に多くの在日ビルマ人が「特別在留許可」によって何千人規模で在留資格が与えられてきたという事実がある。

 このように条約難民という狭い「難民」のくくりを超えての幅広い難民の受け入れを、日本政府は特定の国の出身者に対して行っているのである。日本政府と日本社会一般がウクライナ避難民の受け入れに積極的な姿勢を示している今こそが、「難民鎖国」から脱却するべき時である。

 我々はトルコ出身のクルド難民をはじめとする様々な国から逃れてきた、広い意味での難民に対して、日本政府が積極的に裁量権を行使して在留資格を与え、保護するように呼び掛ける。

 

*1 出入国管理庁「令和2年における難民認定者数等について」2022 年 3 月 31 日,

https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00003.html (2022 年 5 月 8 日アクセス)

*2 出入国管理庁「日本に在留しているウクライナのみなさんへ」

https://www.moj.go.jp/isa/support/fresc/ukraine_support.html(2022 年 5 月 8 日アクセス)

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〈豆知識〉なぜ日本に逃れて来るの?

 

 クルドの人たちが海外の避難先に日本を選ぶ理由は個々のケースで異なるでしょうが、湾岸戦争後の大量難民流出時に、平和国家・経済大国日本のイメージやトルコ国籍の人に対し「ビザ免除措置」が適用され、渡航がしやすかった制度上の有利さが大きかったとみられます。また知り合いが既に日本に渡り、1990年代から「ワラビスタン」(埼玉県蕨市)と呼ばれるようなクルド人のコミュニティが形成されつつあったことは、見知らぬ国へ旅立つ際に安心感が持てたに違いありません。

世界の難民と日本の対応 

 世界では大きな戦争や内乱・内戦があるたびに、安全と生活を求めて多数の難民が国外に逃れます。1975年にベトナム戦争終結した後のボートピープル」で知られたベトナム難民をはじめ、近年もイラク戦争、シリア内戦、北アフリカの混乱などから逃れて地中海を渡る人々は後を絶たず、ミャンマーから逃れるロヒンギャ難民は今も報道されていますが、日本政府の難民対応は先進国の中でも受け入れが極端に少なすぎるので「難民鎖国」として有名です。日本は「難民条約」に加入した国ですが、その実態は「難民迫害国」だと指摘されます。問題は「難民認定」の数だけではなく、その外国人の出入国や在留をめぐる様々な処遇について「基本的人権」を侵害していると多くの批判が集中しているからです。例えば迫害国から逃れて日本の空港に着き難民申請をしたのに、入国を拒否、警察に連行され「不法入国者」にされたり、難民申請者の情報を当該迫害国に知らせたり、入管収容施設に長期収容して「制圧」の名目で職員が集団暴行を加えたり、特別室で懲罰的拘禁をするなど、人権侵害が続いています。

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【予告】世界難民の日イベント(予定)

難民・収容問題 写真展

6 月11 日(土)〜18 日(土)入場無料

東京・神保町 日本教育会館・一ツ橋画廊

6 月12 日(日)15 時〜 日本教育会館

講演会 「ウクライナクルド 日本の難民受け入れについて(仮題)」

講師 大橋毅(弁護士)、志葉玲(ジャーナリスト)

※詳細は追ってお知らせします。

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書籍出版のお知らせ

『入管問題とは何か 〜外国人収容施設の暴力性をたどって』(仮) 明石書店

 2022 8 月刊行予定 第5章にクルド難民デニズさん、M さんの支援の軌跡や、2004 年に起きたクルド難民二家族の国連前座り込み抗議行動と、それに続くクルド難民父子の強制送還、残された家族の送還を阻止するための市民の行動などが書かれています。

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【署名のお願い】

クルド難民デニズさんの在留特別許可を求める署名」

デニズさんが日本で安心して暮らせるように在留特別許可と就労許可を求めています。

ぜひご協力下さい!

 

www.change.org_____________________________________________________________________________________________________________

 

クルド難民デニズさんとあゆむ会 Walk with Kurdish Refugee Deniz

 

デニズさん支援についての最新情報はこちらをご覧下さい。https://www.facebook.com/walkwithDeniz

連絡先 共同代表 福島尚文(OB 記者)

 E-mail: naofuku1973@yahoo.co.jp 携帯番号: 090-9316-5003

 

デニズさんの入院費や生きるために必要な生活費などのカンパを募っております。

【カンパ振込先】ゆうちょ銀行 店名 〇一八(ゼロイチハチ)

口座番号 0049017 口座名 フクシマ ナオフミ